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きれいやなあ  

グループホームのお年寄りと琴のおけいこを楽しんでいる頃のことでした。

コーロリン コーロリン
私の真似をして
親指 人差し指 中指が
あっちへ行ったり こっちに来たり
 きれいやなあ
音色が違うといって笑う

さくら 荒城の月 糸車
二重奏した日はいつのことだったろう
コーギー犬が足元で聞き惚れて
うつら うつら
 あんたええ子やなあ

幸せなひとときも去り
脳の中で小さな悪魔が住むようになった
その悪魔はお年寄りからお琴を奪った

 きれいやなあ
千代紙のようなお手玉を手に取り
重なり合う色の変化に心がはしゃぐ

私がお手玉をポンと投げると
頭の中のキューピットが喜んだかのように
「一番初めは一の宮
 二は日光東照宮
 三は讃岐の金毘羅さん・・・」

頬を染め 子供に還った
でも小学校の先生の尊厳は目の奥に残っている
それは決して相手を悲しませたりしない
愛嬌の笑みである

お手玉に疲れお互いの手と手を握った
 きれいやなあ
少し若い私の手と比較している
皺のたるみをつまむと
キャッ キャッ 笑う
指をからめ合ってぬくもりを確かめ合った

私の母だったら こんなに優しくは出来ないだろう
傍らで眺めている長男の気持ちが胸にひびく

レビー小体型認知症
日本ではアルツハイマー型認知症や脳血管性認知症と並び三大認知症と呼ばれている
時々空間に目をやり、うなずいては笑っている

それから
すべてが遠のき
リビングの椅子に目を閉じて座っていることが多くなった
声をかけ、手を握ると離さずに愛想ふるまいは忘れない

とうとう病院のベットの人となった
20年前
尊厳死の宣言書を書いたという
そのおかげで
管人間にならずに旅立つことができた

 きれいやなあ
今頃は あの世で見る景色に呟いていることだろう
                        2013.1.4
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