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幽霊屋敷

玄関のカメラに大きなリュックを背負った友人が映っている。
午前中「じゃぁ好いお年を」と別れたばかり。
電話が切れた直後、私の風邪声と咳が急に心配を煽ったようで冷蔵庫の食品をリュックに詰めて駆け付けてくれた。外壁塗装工事中の狭い階段は危険と忠告したばかりなのに、手押し車を階下に置いてリュックを背に杖をついて三階まで上がってきた彼は視覚障害者。

リュックの中から現れたのは冷凍食品のスパゲッティとカニのクリームリングイネ、チーズ、カニ缶、干し柿、バームクーヘン、紅玉、イチゴ、プチトマトそしてカステラが5個も。
突然 私の手を取ると自分の頬に当て安心したかのように帰って行った。

 外壁工事中の足場で覆われた我が家には光が入らない。盲人にとって目は見えなくても太陽の光に支えられ、物体の陰影で判断できるようである。遮断されたわが家は真っ暗で不気味。私の存在も見えず、風邪声と時折発するぜいぜいした咳が、室内を移動するたびに分散して聴こえるらしい。正に幽霊屋敷だと言う。突然の行動は生きているぬくもりを確かめたかったという。

 寒気のする私は見送ることも出来なかった。
バス停までは10分ほどかかる。途中、信号やでこぼこ道がある。バス停についても行く先でバスを選ばなければならない。盲人にとって難は少なくない。おくびにも見せずに帰って行ったが、案の定心中は穏やかでなかった様子。

帰宅時間を見計らって電話をすると「デパートで買い物をしているんでしょう」とパートナーがあっさりと言う。
私は途中で事件に巻き込まれたらと思うと気が気でなく、ひたすら連絡を待った。

彼は言う。
バス停に着くと、私の母によく似たおばあさんが立っていた。おばあさんは優しい人で「私も新百合ヶ丘駅に行くので一緒に行きましょう」と言い、まもなくやってきたバスに乗り、席まで案内してくれた。
このおばあさんは私が母を霊界から呼び寄せたのだろう。あなたはなんと凄い人だ。
やはりスーパーで買い物をしていたようである。自宅の冷蔵庫から出した食品を補うために。
私は済まないことをしたと詫びると、あなたは私たち夫婦の代わりに風邪をひいて苦しい思いをした。お蔭で私たちは毎日ピンピンと過ごしている。感謝するのはこちらの方だ。生きていてくれて本当に良かった。ありがとうと電話は切れた。

 いつもユーモラスに振る舞う彼であるが、健常者の私には及ばないご夫婦の人間性に私の方が助けられている。
知恵と意志と感覚をもつ素粒子の働きを思った。サムシンググレートとの対話を感じ嬉しく感謝して受け止めることにした。

                   2012.12.15
JUGEMテーマ:日記・一般


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