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人類の友

JUGEMテーマ:日記・一般

人類の友

(一)

それは従姉の家を訪ねたときのことでした。従姉とは40年ぶりの再会です。玄関の広い大きな家に入ると、尻尾をピンと立て毛並みに艶のあるネコが現れ、何も言わずに前足を伸ばしネコポーズで出迎えてくれた。

「タマちゃーん」従姉は頭と頭をタッチすると挨拶の終えたネコは姿を消した。

 私にとってネコは好きでも嫌いでもなく、散歩中の犬を愛でることはあってもネコを撫でたり声を掛けることも敬遠している。

その夜のことでした。従姉が来客用の布団を敷いている。掛布団はネコが引っ掻くからとレース側を下にしている。

床に就くとまもなくネコがやってきた。そして私の二本の足をレールのように足元から上がってくる。意外に重い物体がひとあしひとあし上に向かって歩いてくる。

どこまで上がってくるのだろう。腹部、胸、首まで来るのか。その昔金縛りから抜けられなかった怖さが一瞬過ぎりぞ―っとした。

「ネコが上がってくるゥゥ―」遂に声を発した。

すると従姉は

「これっ 退きなさい。 こっちへ来なさい」

何故かネコは従姉の言うことを聞かない。従姉はネコを抱えて

「お父さんのところに行きなさい!」と部屋から追い出した。

ネコは仕方なく二階へ上っていった。

暫くすると、階上で先に床に就いた従姉の夫の寝返りを打つ音がきしいだ。ネコが主人(あるじ)の身体に上ったのであろう気配を想像する。

 私は眠れなくなった。何故従姉はレース地を下に敷くとき当家のネコの習性を説明してくれなかったのか。40年の歳月を忘れたのであろうか。そして私は考えた。そうだ。恐れることはないのだ。従姉の家でネコが私の首を絞めることはないだろう。むしろネコと一緒に寝れば温かいだろうし、生き物の温もりが心を和ませてくれるかも知れない。

私は寝室から出て暗い階段を見つめた。ネコはもう主人(あるじ)と一緒に寝たのであろうか・・・と思っていると、何とネコが階上の踊り場に姿を現した。

私は空かさず、「おいで おいで 一緒に寝よう」と手招きした。

ネコはおもむろに一段一段下りてきた。寝室の戸を開けて招き入れるとネコは素直に入ってくる。引き戸を閉めようとすると閉まらない。片足をストッパーにして警戒している。何というネコだ。

その時パッと灯りが点いた。従姉も眠れなかったのであろう。その瞬間ネコは部屋に入った。

「さ、一緒に寝よう!」

布団をめくったがネコは入ってはこない。やがて私が横になるとネコは遠慮がちに足元で丸くなって寝てしまった。どうやら寝心地の好い枕になる場所を私の身体から探していたようである。私もネコのかすかな感触と温もりを感じ、何時しかぐっすりと寝入ってしまった。

 翌早朝、散歩から帰る夫のために従姉はすでに起きていた。睡眠不足気味だが床を離れるとネコはまだ丸くなって目を閉じていた。

「可愛い顔をして寝ていたよ」従姉の声に私は納得する。ネコから幸せを頂いたのである。

朝食時、

「タマはどうしたのだ。何をしたのだ」

主人(あるじ)の訝る声に

「だって お客さんが…」

私の出番が来た。私はネコと暮らした経験もなくネコの習性も分からず・・・そして足から首まで上がってくる気がして驚いたことなどを素直に話した。そして更に

「でも、もう分かりましたので…」と言い、いつの間にか隣に座っているタマに

「今夜も一緒に寝ようね」と声をかけた。

ネコは何も言わなかったが、主人(あるじ)は安心したような顔つきになった。

 この主人のネコ思いには訳があることが後日判明したのである。

(二)

タマがこの家にやってくる前に、当家はすでに猫を飼っていた。聞き分けの良い可愛い猫だったと言う。そこへ3匹も飼っているある家から、そのうちの1匹の猫を他の2匹が怖がって避けているので貰って欲しいと頼まれ、当家にやってきた。

なかなかの知性的な風貌だったという。ところが当家に来ても懐かない。先客の猫が家族の言うことを良く理解するので可愛がられ、それがやきもちの原因となった。夫婦の気持ちが自分に向かない寂しさがやきもちを増長させ、主人(あるじ)膝に抱かれても猫は癒されることもなく遂に部屋に粗相をするようになり、神経を病んでしまった。

猫は元の主人(あるじ)(もと)に引き取られた。

 その後3人暮らしの静かな日々が続いたある日のこと。

猫は家の前の路地で遊んでいると、

「あ!お母さん(従姉)が帰ってきた」喜んだ猫は「ニャー」と走ってきた。その時路地に侵入してきた乗用車が通り過ぎた。白い毛が一面に飛び散った後、ネコは倒れた。即死だった。主人が帰るまで住み慣れた家に寝かされ、その後葬られた。

 寂しさが夫婦を襲い、やがて月日が流れた。再び猫と暮らす気持ちが夫婦間に募り、一匹の猫との出会いを求めて探すことになった。

人間の都合で猫を飼い、また人間の都合で猫を捨て、この現実の中で捨てられた猫を探すことで夫婦は償いを思った。

街の片隅に捨てられた猫のたまり場があることを知らされ、夫婦は協力してその場所に幾日も通い、辛抱強く時間をかけて捕獲に成功した。段ボール箱に入れられ自家用車で猫は当家に連れて来られた。

 一時は捨てられた猫。人間の勝手を知りぬいた猫はそう簡単には警戒心を解くはずはない。猫はピアノと壁の狭い間に張り付いて出て来ようともしない。エサも食べない。水も飲まない日が続いた。

夫婦は根気よく語りかけ、日が暮れるとエサと水を置いて、二階に姿を消した。

その努力が実り猫は少しずつ気を許しはじめ、やがて夜中に食事を摂るようになり、家族の声や雰囲気を感じとり、自分の名前がタマであると知り、一週間後には昼も姿を見せるようになっていった。

 三人の生活も慣れ、自由気ままなネコの暮らしも満足していったようである。真夜中には家を抜け出して、近所のネコたちと遊び、時には喧嘩して鼻の頭に傷をつけられたり、溝に落ちて泥だらけになって帰ってくることもあった。

布団に入ると夫婦の足元から上がってきて程よい枕の位置を見つけると重くなった体を横たえて眠った。

従姉は突然寝返りを打ってタマを驚かしたりしても、タマの人間への警戒心はすっかり消えていったようである。けれど邪険な仕打ちは主人の心の中には許せないネコへの思いやりがあったのである。

私は猫という動物の習性を知ると犬と同様、人類の誕生から創造物が与えてくれた人間の友をありがたく再認識させられた。

 それにしても無表情の顔がせめてレトリバーのように笑ってくれたらと思うが、それは如何だろうか? 

 

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